気持ちを届けたい人がいる

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「美味い」  お世辞半分、本音半分。  まぁチョコレートは元々好きだ。 「いひ」  満足そうに笑って、双霧は階段に足をかけた。手でハート型を作りながら、悪戯な笑みのまま言う。 「そりゃあもう、愛情がたっぷりこもってますからー」 「……」  アイツはモテるだろうな。  我が妹ながら容姿は悪くないし、性格も快活だ。当日は特定の人物ではなく、クラス全員に配るようなタイプだろう。  今時は逆チョコだのなんだのが有るようだから明日は結構なチョコを抱えて帰ってくるに違いない。モテない兄は精々ご相伴に与ろう。  つい、と再度テレビに顔を向けたとき、卓上に置かれたケータイが震えた。平たい画面に表示された名前は有島百哉(ありしま ももや)。アイツ程でなくとも付き合いの長い悪友だ。   どうせ下らない話だろうと分かっていながら電話に出る。 「何の用だ」 「冷たっ」  いつも通りの反応の良さに少し笑う。画面に相手の名前が表示されるからこそ出来る戯れだ。  今度は少しだけ柔らかい声で「何の用だ」と尋ねる。 「なんのってお前、明日がどんな日か忘れた訳じゃないだろうな」    用件は案の定下らない。  「悪いがチョコは用意してないぞ」 「いらねーよバカ」
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