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その日の望都は、デスクに向き合うでもなく、鉛筆を握るでもなく、ただ、その姿がやってくるのを待っていた。
電気をつけて待っていようか。
いや、それではまた彼女に逃げられてしまうかもしれない。……あの時のあの駆け引きが、彼女の意思でなかったのなら。
――駆け引き、か。
一度も経験したことのなかった行為だ。
こんな風に、誰かを想い、内心少しだけドキドキしていることなんて。
10年前、その姿がやってくるのを待っている時間はあった。
あの頃の自分は、綺麗で、まっすぐで、彼女が来ないという選択肢は頭の中に存在しなかった。
彼女もまた、望都のそれと同じだったと思う。
まっすぐでまっさらで、清純で……。
純白が似合う。純粋が似合う。
だから望都は今でも、その影を追って、純白のウエディングドレスを創っている。
「……大丈夫、ですか……?」
震える、甘い、あの声が望都の真上から降ってきた。
パチッと目を開けた。
いつの間にか、またソファーの上で眠っていたらしい。
望都を覗き込むその姿は、窓の外から零れる光を浴びる梶矢だった。
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