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そこまで言うと、彼女は一度口を閉じた。しかし、まだいくつかの情報を持っていそうだった。不安そうに口を開きかけては思い止まり閉じる、という動作を何度となく繰り返しているからだ。
「あの、ここ何かあるんですか?」
彼女から情報を引き出そうと、優しく丁寧に尋ねかけてみる。オレ自身、自分の置かれている状況が不明瞭な部分があり不安だ。それは彼女自身も同じようだ。自分と不安を共有しようと、静かに口を開いた。
「私も噂で聞いただけなんですけど……。ここ、生贄の地らしいんです」
「生贄?」
突拍子もない答えに、変な声が出る。
「はい。ここには“人喰いの魔女”がいるみたいなんです」
「人喰いの魔女ぉ!?」
さらに予想外の答えに、声が大きくなってしまう。すると、道の向こうにいる彼女が、慌てたように視線を動かし周囲を警戒する。そして、静かにしろと言わんばかりに睨みつけてきた。
「あぁ、ごめんなさい。でも、人喰いの魔女って……」
「なんでも、この地にいる生き物をチョコレートに変えて食べるみたいなんです」
「チョコレート!? あの、お菓子の? 甘くて、ちょっとニガイ、あのチョコレートですか?」
「そうです」
オレの言い方がふざけているように聞こえたのか、彼女は僅かに言葉尻を強く返してきた。
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