初恋の味は

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 けれど、俺と島崎の関係はこんなものだ。お互いにどこの高校を受験したかも知らない程度。必要があれば話すけど、特に仲が良かったわけでもない。もともと俺も島崎も、社交性が高いわけじゃなくて、どちらかと言えば一人でいることが多かったし、口数も少ない方だ。  だから今こうして、島崎の方から声をかけられたのにはちょっと驚いている。俺がもし島崎の姿を見かけても、きっと声はかけなかっただろうから。 「清華はここからじゃ遠すぎるよ」 「そこで学力が足りないとか言わないのがすごいよな……」  こうして正直に話をするところは変わっていない。変に誤魔化したり、愛想良くしたりなんかしない。そういう所はうらやましかったし、好ましかった。  ちょっと変わったのは表情が柔らかくなったところだろうか。中学校の頃は、もっと澄ました顔をしていたような気がする。 「でも、常盤だって充分すごいと思うけどね」 「いやいや、緑南に比べたら全然――」  と、そこで俺の腹の虫が「ぐー」と大きく鳴いた。閑静な住宅街。俺たちの話し声くらいしか聞こえていなかったところで、その音ははっきりと聞こえた。 「…………お腹すいてるの?」 「あはは……。今日お昼食べ損ねてて」  昼休みに先生に呼び出されて昼食を食べていなかったのだ。そのまま午後の授業は移動教室が多くてそれどころではなかったし、放課後になったらなったで今さら食べなくてもいいかとなってしまった。 「じゃあ、これあげる」     
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