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ポン
ポンッ
ポポンッ
指先と指先だけを恥ずかしげに絡めて、夕暮れだか朝焼けだか区別がつかない太陽の下に並ぶ影。
影だけはピッタリくっついて離れない。
「ヒナタはずっとアッくんの味方だよ」
「俺、絶対迎えに来るよ。もっと都会の、生のファッションを見て、必ず一人前になって、地元に店を出すんだ。その時はヒナタ、一番のお客さんになってくれる?」
語尾だけ、どうしても声が震えてしまった。
「うーん、お客さんて言うか、カットモデルしてあげよう!」
「タダ狙いじゃん!」
いつもヒナタは明るい方へ気持ちを動かしてくれる。ショートボブの髪を嫌々伸ばしていてくれるって約束をした。
「俺も伸ばすよ」
「それはキモイ。お客さんに嫌われるよ」
ポンッ
ポポンッ
膨らむのは瞳の中の涙。堪えて堪えて口の奥が涙味だ。
陽の光が溶け込んで、桜の花弁たちが、まるでポップコーンみたいだねってヒナタが言う。期待と希望に満ち溢れて花びら一枚舞うのも躊躇った。
二つの影は祝福の花道を潜り抜け、見上げると首が痛くなるくらいの石段 を急ぎ足で登った。
今日は一年に数度とない特別な一日。
「陽の傾きと追いかけっこしてるみたいね」
太ももが痛くなるくらいに登った頃、石段が橙色に染まり始める。次第に橙色が濃くなって足元が眩く見えなくなる。僕らは光の道に包まれた。言葉にならない程に美しくて、何にもできない僕らには荘厳で、ただただ立ちつくした。玄界灘のずっと先まで道は続く。
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