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第1章 越えない一線
「明後日どう?」
「えぇ、そうね」
会社の給湯室、ほんの数秒の会話だった。
美園と紀生は、どちらも既婚者で、いわゆる不倫関係だ。
配偶者では満たされない気持ちを補い、そして、お互いがいるから、今の夫婦生活が穏やかに過ごせる。
何故か美園と紀生は、一緒にいるのがお互いのパートナーよりも自然で、「不思議な関係」だと、納得した付き合いをしている。
「じゃぁ、明後日。いつもの場所で」
「はい」
心の中では明日が待ち遠しく、楽しみで仕方がなかったが、二人は何もなかったように給湯室から離れ、仕事に戻った。
『いつもの場所』二人の帰り道、車で数分の人気の無い公園の駐車場だった。二人の車が駐まっていても、車道からは、木陰で見えない。
仕事を終え、二人は『いつもの場所』で合流した。
情事は、車の中。美園の車の後部座席で、数分間の甘い時を過ごす。
男と女、やることは、一つ。お互いが求めるまま、躰を任せるだけ。ただ、二人の関係は少し違っていた。
『最後まではしない』これが約束。
最後までしない=お互いのパートナーを裏切らない
と、勝手な理屈をつけて、『裏切り』という事実から目を背けただけだった。
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