葉桜のとき

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野球部員の掛け声が、夕空の膜に反響して、辺りをぶるぶる震えさせていた 体育館から、外のグラウンドを眺める。 その向こうで、ゆっくりと地に飲み込まれていく太陽の額。 昼の淵が、沈みゆく太陽の垂れ流す橙色の果汁を、ぐんぐん吸い込んで染まっていく。 それは、香ばしい風で波打ち、横切る鳥の影を沈ませては浮かばせる。 夕焼けの底で、ゆらゆら浮かび上がる、小さな野球部員の影。 その中に、カズマの姿を見つける。 「ハル」 友人のミワが私の名を呼び 「今、カズマの事見てたでしょ?」 肘でつついた。 「違うってば」 ミワの背中を叩いて否定。 高校生になって、入部したバレーボール部。 部員の数も割と少なく、部活というより、同好会の様な、和気あいあいとした雰囲気。 ランニングと筋トレが終わり、ミワと一時休憩していた。 「いたーい。ねぇ、いつ付き合うの?」 「わかんないよ、まだ」 「まだって、何度かデートしてるんでしょ」 「してるけどさ」 カズマは中学校の頃からの友人のひとりだったけれど、卒業式の日に告白された。 今まで友達としてしか見たことがなかったから、答えは保留にしてある。 いい奴だ。 少しおっちょこちょいなところはあるけど、性格はいい。 だけど、ドキドキしたりはしない。 ときめきというものがない。 これって、恋愛感情がないって事なんじゃないかと思う。
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