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―――いきなり殴られたらどうしよう……。  そんな不安に飲み込まれそうになっていると、銀髪の人がスマートフォンの弄りながら目を瞬いた。 「もしかして、誰かと間違えてる?」 「っ、ま、間違えてないです……。」 「俺と君って面識ないよね?それとも俺が忘れちゃってるだけ?」 「い、いえ、あの、はい。面識、ないです。ごめんなさい。」 声が震えているせいで僕の言葉は片言になってしまう。 「お、お願いします。一回だけでいいんです。」 「一回だけって言われてもなぁ。」  銀髪の人はスマートフォンを弄りながら欠伸をかみ殺す。シルバーリングがはめられた指がフリック操作をする度に動くのを見ていると、額からも冷や汗が噴き出してきた。 ―――あれで殴られたら絶対痛い。 骨とか折れちゃうかも……。 「あ、あの、ごめんなさい、でも、僕……あの、お願いします。」  もう一度言うと、銀髪の人に呆れ顔でため息をつかれてしまう。 「だいたいさぁ、普通初対面の人をセックスに誘うー?例えセックスが最終目的だったとしても、とりあえずはカラオケとか飯とか誘うもんじゃない?」 「ご、ごめんなさい。」  慌てて謝った僕ににこっとほほ笑みかけ、銀髪の人はスマートフォンを弄り続けながら尋ねてきた。 「ねえ、いっこ気になってたことあるんだけど、聞いていい?」 「あ、は、はい?」  スマートフォンをポケットにしまった銀髪の人は、僕の顔を覗き込んできた。いきなり近づいた顔と顔に吃驚して後ずさると、銀髪の人は僕の顔を指差した。 「その顔の怪我ってどうしたの?」 「……こ、これは……なんでもないです。」 反射的に頬のガーゼを押さえる僕を見て、銀髪の人は苦笑いをこぼす。 「えー、でもガーゼに血が滲んでるじゃん。なかなか顔なんて怪我しないと思うけどなぁ。」 「へ、平気です!なんでもないんです、本当に。」 「なに、喧嘩?大人しそうな顔して、結構荒事が得意なタイプ?」 「ち、ちがいます!僕はそんな、喧嘩とか……!」  否定の言葉をあれこれ重ねてみたが、銀髪の人は納得してはくれなかった。まじまじと僕の顔を覗き込み、次にいきなり僕の手首を掴んだ。 「痛っ!」  握られたところに鈍い痛みが走る。そんなに強く掴まれたわけでもないにも関わらず声を上げてしまったのは、ほんの一時間前に手首をきつく縛られていて、今もなお血が滲んでいたからだった。
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