その蕾、花開くときを待つ

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「ちーちゃんのばかっ良ちゃんのばかっ猛の大馬鹿!ハゲ!」 千草のマンションを飛び出して、子供のように涙を流したまま文句を言いながら通りを歩き続ける雫。   目立つ容姿をした人間がそんな行動を起こしていたら、何かの撮影かと思ってしまうのだろうか。 通行人はぎょっとしながらも遠巻きにその様子を伺う。 「誰がハゲだっ!なんか俺だけひどくないか?!」 迷子のように泣き喚く子供の保護者が迎えに来た。 雫の肩をつかんで引き止めたのは、猛。 一瞬びくりと身を震わせて、警戒を露にした雫は、聞きなれた声にほっと息を吐いた。   のもつかの間、顔をさらに歪めて、後ろから肩をつかんでいた猛の手を叩き落とした。   「何でついてくんのよ!裏切り者!」   振り返ることなく雫はわっと騒ぎ出し、遠巻きに様子を伺っていた通行人たちは、いよいよ野次馬に変わろうとしていた。   その様子に猛は慌てて、雫の口を後ろから羽交い絞めのように片手で塞ぐ。 「わかったからとりあえず移動しような」   思わず跳ねた肩は先ほどの恐怖に対してとは違う。 耳元でささやかれる声がまるで知らない男のような感じがして、口を塞ぐ手が大きくて、走ってきたのか高い体温が背中に伝わってきて。   あまりの動揺に雫は動きを止めてしまった。 暴れるだろうと予想していた猛は、ぴたりと動きを止めて固まってしまった雫を不信に思いながらも、今のうちにと引きずって場所を移動する。   野次馬たちは残念そうに、またどこか羨ましげに二人を見送った。   なんか…ああいうのいいな…
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