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「――葵っ!」
大学の門を潜ると、背後から聞き慣れた声が届く。
振り返ると親友の宮下香織が、満面に笑みを浮かべて大きく手を振っていた。
「香織」
香織も同じ大学に進学した――というより、元々彼女の方が先に京都府大を志望し、勉強をがんばっていた。
それはかつて、家庭の経済状況を懸念して私立の有名中学から府立高校に進学した彼女らしい選択といえるのかもしれない。
そんな香織は華美ではないものの、可愛らしいワンピース姿だ。
まさに女子大生という雰囲気であり、学校構内で『制服姿』ではないのが、とても新鮮に思える。
「おはよう。シンプルで素敵なワンピースだね」
「おおきに。もう、何着たら良いか分からなくて。すでに『制服が楽やった』て思い始めてるくらいや」
「分かる。でも、初日から根を上げないで」
「そやね。いよいよ、今日から大学生やね」
校舎を仰いで、熱っぽく言う香織に、私は頷いた。
先週の金曜に入学式を終え、休み明けての今日は、登校日一日目だ。
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