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紅璃は角を曲がったところで、二階の一室に窓を見つけた。助走をつけ、部屋に入る。
そのまま飛び降りようとした――――寸前、視界が遮られた。
吸血鬼が追いつき、割り込んできたのだ。
紅璃は急に止まろうとした反動で、尻もちをつき始める、と同時に吸血鬼は、途轍もない速さで扉の前に移動し、扉を閉じると、鉄パイプで固定し、紅璃がお尻をつく頃には再び吸血鬼は窓側へ回り込んでいた。
前かがみで紅璃の顔を覗き込むと、凄惨な笑みを浮かべ尋ねる。
「どうした? もう鬼ゴッコはおしまいか?」
紅璃は完全に退路が断たれていた。それに眼前であれほど圧倒的な速さを見せられては、単純に逃げ出すのも難しい。
それに紅璃は今、座り込んでしまっている。
吸血鬼は、上体を起こすと力説した。
「元気のある者に対し、いくらその者以上の力を持っていたとしても、賢人は力任せに押さえつけるようなことはしない。自分が有利であるという立場までも利用し、相手を掌の上で泳がせ、疲れさせるなり追い込むなり甚振るなりして、相手が動けなくなる状況を作り上げる。そしてゆっくり詰める。それが賢人のやり方だ。そなたも覚えておくと良い」
紅璃は必死に振り絞ったが、どう考えても現在の状況を打破する方法が見つからない。
死の恐怖が紅璃の全身を襲った。
逃れようのない絶望感に、体中冷や汗が流れ、体中が震え始めた。走馬燈が流れ、瞳から涙がとめどなく溢れ出る。股辺りが生温かい違和感に包まれた。過呼吸になり、嗚咽が漏れる。
自分も、真紀のような目にあうのか……
紅璃は震えながらも唇を噛み、吸血鬼を睨みつけた。
「ほう、どうした? 我に抵抗するのか?」
紅璃はヒステリックになっていた。鼻声で叫ぶ。
「もういい。私を殺してよ! 真紀を殺したときみたいに!」
それを見て吸血鬼は、愉快そうに微笑んだ。
「ほう、真紀とはどなたのことだ? 我が食した、あの老人か?」
「――とぼけないで! 私と同じ年の女の子! あなたが駐車場の奥で、服をひん?いて、血を撒き散らして、残酷に殺した女の子のことよ!」
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