さようなら

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さようなら

卒業式を控えた3月のとある放課後 私は静かな音楽室のピアノに最後の挨拶をしに来た 家にあるピアノより景色が綺麗な この音楽室のピアノが好きだった 4階にある音楽室は眼下には桜の樹があって …春には花を初夏には葉の生い茂った桜を 秋には枯れていく葉を冬には耐える芽を 私はいつも眺めながら弾いていた 「弾いて」 「はい…何を?」 私は黒い蓋を上げて鍵盤の上をなぞる 「ショパンが聴きたい…」 「わかりました…」 指が音を紡ぎ出す 鎖のように繋がりながら 光のようにキラキラと舞うように 丁寧に指を動かす 音の舞が終わるとゆっくりと手を鍵盤から離すと… 「相変わらず綺麗な音だ、蘭…」 久嗣が私の肩に手を乗せ…首筋に指が触れた 「…」 「…蘭…可愛いな…」 「ん…ひ、さ…つぐ…」 触れた唇が私の上唇を食み開いていく… 歯列をなぞるように動く舌先で久嗣は 私はただ、されるがままその唇を受け止める そのまま久嗣の指が制服の襟に滑り込む … 「んっ…」 深まる口付けに 息苦しくて身を捩ると タンっ…ピアノが鳴りハッとした… 「もう、帰りなさい『饗庭』…」 苗字で私を呼ぶとき…それはこの時間の終わりを示す 「はい…先生」
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