Feast(最後の祝宴)- 開幕

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MCの佐田が壇上に進み出て声を上げた。 オッサンたちの歓談が途絶えて一気にざわついた会場が静まり返る。 「ご歓談中に失礼します。雷門組・若頭になられた雷門理玖様から最後にお礼のご挨拶があるということです。壇上に再びお上がりいただきます。雷門理玖様、こちらにどうぞ」 名を告げられた弟は光の下、壇上に進み出た。 白い紋付が照明に照らされて彼のホリの深い顔をくっきりと引き立たせる。 「本当にいい男だな」 「本当にね」 壇上を見上げてため息交じりに言った組長の呟きに後ろから答えた男がいた。 「コト」 「弟君はさすがにモデルだけあるね。筋肉もしっかりつけてるから、あの艶やかな紋付に負けないね」 「なんだ。体躯を見たようなこと言いやがって」 「お前が極道らしからぬ惚れ惚れしたような目で弟クンを見てるから、からかいたくなるだろ」 「悪かったな」 「大事な弟クンの晴れ姿だ」 コトはこの頃顎髭を蓄え始めた。男性ホルモンをうつと髭も生えると初めて知った。 「あともう少しだな」 「あ?なにが」 理玖は舞台の中央に立ち深々と頭を下げ挨拶の口上を述べる。 『本日はお忙しい中、私如きのお披露目のために足をお運びいただきましてありがとうございます』 会場を見渡して言葉をかみしめながら挨拶を続ける。 『極道の道を兄・雷門桂斗と共に日を全うし、伴侶として支えながら歩んでいきたい所存です。これからも幾久しくお付き合いいただければと思っております。よろしくお願い申し上げます』 「それでは、雷門理玖様の決意の証をお見届けくださいますようお願いします。壇上にご注目ください」 司会者は理玖に手をかざして紹介すると、弟は背中を向け羽織を脱ぎ棄てる。 そして腕を袖から抜いて腹のほうに回すとぐっと袴を引き下げた。 「これが練習したっていう『遠山の金さん』方式か」 「なんだそれ」 「弟クンかなり練習したって自慢してたよ」 「そうなのか」 一度前合わせを広げて一拍空けてバッと肩を回して着物を脱ぎ棄てた。 フラッシュがたかれる。まぶしい閃光が彼の背中に注がれる。 「弟クンを囮に使うんだから、血も涙もねぇな」 「あ?なんだと?」 そういったかと思うと桂斗はコトの前から消えていた。閃光を浴びている弟の方とは逆方向、扉に近いところに全力で走っていた。 バーーーーーーーーーーーーーーン!! 一発の銃声が会場に響く。
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