限界

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
『……あと五分。いや、三分だ』  もうすぐ、限界がきてしまう。  いや、もうよく我慢した方だろう。 我慢に我慢を重ね、僕はこれまで何度も君を許してきたんだ。  いい加減にしてくれよ。  どうしたら君は、僕を安心させてくれる? 「……残念だ」  短いようで長く感じた三分が過ぎ、ようやく覚悟を決めた。 もうこれ以上、僕は君を許せない。 「……タイムオーバーだよ。楽しかった時もあったんだけどね」  小声でそう言うと、静かに立ち上がり窓際の椅子に腰かける。 「……あと四時間か」  そしてまた、別のタイムリミットが僕にプレッシャーをかける。 ――――四時間後。 「ちょっと! いつまで寝てる気なの?! 早くご飯食べに行かないと予定が狂っちゃう!」 「んぅ……」  大きな声に、ぼんやりと目を開ける。  しかし、彼女は着替えや化粧で忙しなく、目を開けたことには気付いていない。 「……もうっ早く起きて! どんな寝かたしたらこんなとこで寝るわけ?」  暫くして、再び声に気付き目を薄く開けてみる。    今回は目の前に彼女がいた。 目敏く気付かれ、やむ無く体に活を入れ背筋を伸ばす。 「ん……あぁ、ごめん。おはよう」 「うん、おはよ。早めに準備してね」  ……まさにギリギリだった。  目の奥が笑っていない笑顔を向けられ、これ以上寝ていたら今日1日彼女の機嫌は最悪だったと痛感した。  彼女との泊まり掛けの旅行。もう何度か経験し、緊張感はだいぶ減って色んなケアの仕方もわかってきた。  何より、素の彼女を見れて嬉しいし、愛おしくも感じる。 だけどそれは、彼女が起きてる間に限られる。  どんなに寝相が悪くとも、イビキや寝言を言おうとも、寝ながらお尻を掻こうとも、彼女を思えば許せられる。 だけどそれでも、 「ギリッ……ギリギリギリ」 そう不規則に聞こえてくる歯軋りは、慣れるまでには、まだまだ時間が必要らしい。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!