壱ノ巻

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首領様、というと、烏天狗のアヤカシ様を纏める方なのだろうか。 つまり、それはコウ様より偉い方で・・・。 そこまで考えて、兵士のアヤカシ様が私の首の麻縄を引き、私を小さな声で怒鳴り倒した。 「何をしている!今すぐに平伏しろ!」 「了解しました。ですが、そろそろ緩めてはもらえませんか?」 引っ張られ過ぎて首に痕ができているだろうが、それよりも気道が締まって辛いのだ。 「貴様が平伏するならば緩めてやろう。」 その言葉を信じ、少しだけ場所を移動して、コウ様の周りを空けつつ、正座しなおし、手のひらを床にくっつけ、床に額をこすりつけるように頭を下げた。 そのままの状態で、しばらく待っていると(紐は緩めてもらった)、静かな足音が聞こえてくる。 額を床に付けているので、振動がこちらにも伝わってきて。 振動はどんどん近付いてきて、近くで止まった。 恐らく、コウ様の傍らにお座りになられたのだろう。 「・・・久しいな、コウ。」 「ああ。お陰で目覚めることができた。」 「あれは我がしたことではない。許可は出したが、レイやシン、ケイがやったことだ。」 「だが、許可を出してくれたんだろう。それだけで十分だ。」 「ふ・・・。」 静かな声は荘厳な響きで。 尊大な口調の中には、コウ様への優しさ、レイ様シン様ケイ様への労りが含まれていた。 だけれど、どこかで聞いた声のような気がして、思い至る。 少し前、牢屋の中で聞いた声と同じだ。 つまり、私は首領様にあのような態度を・・・! 思わず脳内で自分を殴る。 一人だけで居たならば本当に殴っているところだ。 「そこの者が治してくれたことは知っている。コウを起こしてくれたこと、感謝する。」 そこの者、そこの者、とは・・・私!? 「あ、ありがたき幸せでございます!」 「ふむ。皆の者、面を上げよ。」 静かな声に従って顔を上げる。 目の前には、長髪の黒髪で黒々とした瞳でこちらを見下ろす美丈夫が。 この方が烏天狗のアヤカシ様の首領様なのか。 「お前には褒美をやらねばな。まずは・・・。」 まず!?複数あるのですか!? ヒュン、と音を立てて、背後で紐が千切れる音がした。 「え?」 振り返ると、するりと紐がほどけ、首元が軽くなった。 「お前が無実だということを証明してやろう。」
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