壱ノ巻

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「え・・・。」 驚いた顔をして兵士のアヤカシ様たちが首領様を見ている。 「ふむ、ここまで広がるとは予想しておらなんだが、下級兵たちは完全に信じておるようだな。ならば・・・。」 組んでいた腕を解き、パン、と柏手を打つ。 すると、どこからともなく烏がやってきて、首領様の腕に捕まる。 後ろの兵士様が、眷属様だ・・・と呟かれたので、あの烏は首領様の烏で、普通の烏でないということだけは把握した。 烏様、の方が良いだろうか? 「我が眷属よ。その目で見たことを、真実を、映し出せ。」 厳かな声が、しんと静まり返ったこの部屋に響く。 烏(様)がカア、と鳴いたかと思えば、天井になにやら絵が映し出された。 それは動く絵で、コウ様の居る場所が中心となり、私たちが動き回る。 どうやらとても早く流れているようで、すぐに私がやってきて、囲まれ、斬りつけられ、妨害され、コウ様に薬を飲んでいただいた。 勿論、気管に入らないように、どうにか起こして体を固定して、飲んでもらうやり方をしている。 幸い、気管に入ることはなかったので、良かった。 それから付きっきりの看病が始まり、コウ様が目覚められたところで動く絵は終わった。 「これで分かっただろう。コウを殺そうとしていたのはこの娘ではなく、他の者たちであると。この娘の勇気ある行動により、コウは目覚めることができたのだと。」 わ、分かりますかね・・・? 「我も断言しよう。この娘はコウの命を助けようと動いただけであると。コウはこの娘に救われたのだと。」 断言されて、心が軽くなる。 少しだけ、ほんの少しだけ、私を捉えて引きずり倒した兵士のアヤカシ様たちに、落胆を感じていたのだ。 ああ、アヤカシ様といえども、このような方々もいるのだ、と。 勿論、そういう方だけではないということは知っていた。 幼い私を薬師として扱ってくださったレイ様、シン様、ケイ様のような方もいるのだ。 ただ、ほんの少しだけ失意の念に駆られていただけだ。 けれど、その気持ちは首領様の言葉によってきれいさっぱり拭い去られ、どこかへと消えてしまった。 「ほら、お前ら何か言えよ。」 不機嫌なのを隠そうともしないケイ様が顎をしゃくった。 その先は、兵士のアヤカシ様たち。 「「「「薬師様、大変申し訳ございませんでした!」」」」 「いえ!こちらこそ!」
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