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「稜二、…てめー、……ふざけんなよ」
病院に着いて、まず杉下くんが言ったのはこの一言だった。
休日の空いた病院。
待合場所のベンチに、未原さんと末永くんが座っていた。
「未原も、…なんだよ…。あの電話」
杉下くんは怒ってた。
末永くんは涼しい顔で未原さんの横で普通に座ってた。
未原さんは泣いた顔で、私たちを見上げた。
「ごめん、…だって……だって、最初に稜二のバイク見ちゃったんだもん…」
涙声で言う未原さんの膝を、末永くんが叩く。
「わりーな。海都。…オレ、……顔と手、擦っただけ。
玲衣がパニくったせいで、…病院まで来させて」
末永くんは立ち上がって、私たちにすり傷を見せた。
彼は私を見た。
末永くんの私服は大人っぽくて、高校生じゃないみたいだった。
「ごめんな、デート中だったのに」
そしていつものニヤニヤ笑いをした。
「こんにちわ…」
場違いな挨拶を、私は今更ながらに末永くんと未原さんにした。
未原さんはチラっと私を見て、すぐに目を反らしてしまう。
泣いた顔を見られるのがイヤみたいだった。
いつもは冷静に見える未原さんが、こんなに動揺するなんて本当に珍しい姿だなと私は思った。
末永くんは、座ったままの未原さんの頭をくしゃっと撫でた。
その目は優しかった。
つい先日のことだ。
私は末永くんに引きとめられて、「海都のこと怒るなよ」って声を掛けられた。
「怒ってない」って私が言うと、彼はすごくいい人って感じの笑顔になって、そして去っていった。
末永くんは普段コワモテだったから、そんな顔をして人を見るっていうのが意外だった。
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