1 心の拠り所との別れ

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 キャバクラで働いているお母さんはまだ眠っている。  いつもだいだいお昼過ぎまで眠っている。  日付が変わっても働いているので仕方ないとは思う。  そんなお母さんを起こさないように私はなるべく物音を立てないように調理を開始する。  寝起きの悪いお母さんを起こしてしまうと面倒なことになるから。  うるさい! 私の眠りの邪魔をするな!  お酒臭い口で怒鳴られて、当たり散らされるだけ  そうなることは目に見えている。  だから、私は静かに調理する。  今日もインスタントの焼きそば。三食入りで98円(税込みで)。私が買ってきた焼きそば。  フライパンに油を引いて、麺を炒めるだけ。6歳の私でも調理できる。4歳の頃からやっているので、もうお手の物。  料理は別に好きでやっているわけじゃない。掃除、洗濯、お買い物、料理。家事は私の役目だから。  お母さんは月末になると、今月の分ね。と言って、長女の私に一万円札を三枚渡してくれる。  そのお金が私たち三姉妹の一ヶ月分の生活費。食費も日用品も病院代も含まれている。  その三万円で一ヶ月をやりくりしなければならない。  以前、お菓子を買い過ぎてしまって、その生活費が足りなくなった月があった。  お金をください。私は恐る恐る、お母さんに頭を下げてお願いした。  使い過ぎたあんたが悪いのよ! 弁解の余地は全くない。有無を言わさず怒鳴られてしまった。  怖くて怖くてたまらなかった。二人の妹の前で泣いてしまった。暴力を振るわれなかっただけまし。  その日から、なるべく節約するようにしている。  何かあった時に備えて、1円でも多く貯金している。  だから、今日のお昼ご飯も三食入りで98円の焼きそば。  贅沢は決して許されない。
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