第2章 悲しみ、のち。

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約束のその日は大雨だった。 マンションの前に止まる、彼の車の音が聞こえ、窓の外をのぞいた。 その瞬間、携帯が鳴り、彼の声が外に出てくるように告げる。 いつでも出れるようにと、椅子に掛けてあったコートとカバンを手に、家を出た。 車の外に出て、私が出てくるのをじっと見つめている。 元気のない、笑顔。 「濡れたでしょ」 傘をさしていても一瞬でびしょ濡れになってしまうほどの大雨。 カバンの中に入れていた大き目のタオルを取り出し、スカートのすそを丁寧にふいた。 「そのうち乾くと思います」 「暖房、強めにしておくね」 そういうとアクセルを踏み、何も告げずに目的地に向かいだす。 私のほうは見向きもしないで、ただひたすら、まっすぐ前を見つめる彼。 景色は雨で流れていき、だんだん、高いビルが消え、車さえもまばらな場所までやってきた。
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