5章 妖精の里 巫女の初添い

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5章 妖精の里 巫女の初添い

大陸南部に連なる霊峰マハ。 その裾野に広がる大森林地帯マハランに、妖精の里はある。 小人や獣人と呼ばれる種族の多くがこのマハランに棲み、魔力で築いた結界によって、人間との接触を絶っていた。 人間という種族が排他的で、異人種の尊厳を踏みにじることしかしない為、交流を絶ち、異人種の存在そのものを隠すことで、彼らはそれぞれの種族を守るのだった。 ティナは、朝から何度も呼ばれたような気がしては、東の空を見上げた。 東の空はまだ蒼く明るい。 でも西の空はもう、夕焼けが雲まで赤く染め上げ、霊峰マハの向こうに、輪郭のにじんだ夕陽が落ちていく。 どうしよう、とティナは神殿の最上部にある祭壇の前に座り込んで、迷っていた。 この祭壇で祭祀を執り行う神官のひとりが、今はいない。 ティナの幼なじみでもある彼は、一月前に忽然と姿を消した。 まだ神官になりたての見習い同然であっても、里全体で9人しかいない男性のひとりである為、今も捜索は続いている。 その行方不明のはずの彼の声が聞こえるのだ。 ここへ、とティナを呼んでいる。
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