あるいはあの枝から

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敗北が揺れている。 アパートの部屋の窓を開けると、どこからかコンビニのビニール袋が飛んで来て、がさがさと耳障りな音を響かせながら、また遠くへ飛んで行った。 ゆらゆらと風に揺れていく白い物体は、敗北そのもののような気がしてならなかった。 部屋の換気をしながら、掃除機のスイッチを入れて、フローリングの埃を取り除く。 それから、電気ケトルでお湯を沸かして、部屋のファンヒーターのスイッチを入れる。 暦ではもう春だが、もうしばらく暖房は必要だ。 お湯が沸いたので、マグカップに紅茶を入れる。 ソファに腰をおろして、ゆっくりと一口。 天井が、がたがた揺れる。 2階に住む家族の足音。 ドアを開け、階段を転がるように降りて、駐車場の車に乗り外出をする音が、賑やかに響いた。 カレンダーで言えば、世間はお休みなんだなぁと、改めて思い知る。 サービス業はカレンダー通りには休めない。 しかも最近は、そのカレンダー通りではない休みの日でさえ、出勤していた。 半年前から、責任ある仕事を任されているから。 今日は、何とか早めに帰る事が出来た。 夕食もゆっくり食べる事が出来そうだ。 冷蔵庫の中身を確認しようと立ち上がった時だった。 テーブルに置いていた携帯電話が着信音を鳴らした。 画面には、職場の電話番号。 緩んでいた気持ちが、ぎゅっとまた締め付けられてしまう。 「はい」 電話に出ると、先月入社したばかりの女の子からだった。 泣きそうな声で、 「助けてください」 と訴えている。 「わかった。今から行くね」 私は電話を切り、部屋を出た。
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