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いや。口が滑ったのは間違いないだろう。あのマイペース堅物男が「可愛い」などと普段は言わないのだから。
「い、いや。アリーシャのような成人を過ぎた女性に可愛いは失礼だったな。美しいの間違いだ」
レオンは焦って否定をしたけれど、私はおかしくて吹き出してしまった。
「そう言う、レオンも素敵よ。今日はいつもの軍服じゃないのね」
「当たり前だ。今日は仕事じゃないんだ。軍服なんて着て街中に出たら、目立つ上に、仕事を押し付けられてデートどころじゃなくなるだろう」
そう言うレオンはいつもの青の軍服とは違い、黒いスーツに水色のリボンタイだった。水色のリボンタイはレオンの水色の瞳に良く合っていた。ただ、ズボンのベルトにさりげなく短刀を忍ばせている辺りはさすが軍人と言えるだろう。額にかかる前髪も今日は後ろに撫でつけられていた。いつもは乱れがちな黒髪も今日はきっちり櫛で整えられていた。
「レオンのスーツもよく似合っているよ……そっか、レオンもこれがデートだと思っていたんだ」
昨夜誘われた時は、単に街を案内してくれるだけだと思っていたけれど、レオンもこれがデートだと意識してくれていたことが嬉しかった。
これがデートだと私一人が勝手に想像して、思い上がっていたらどうしようかと思っていたから。
レオンは恥ずかしそうに咳払いをすると、顔を引き締め、片膝をつくと、白い手袋をした右手を差し出してきた。
「それでは、気をとりなおして。赤いドレスのレディ。今日は私と出掛けては頂けないでしょうか」
「はい。喜んで」
私は白い手袋の右手の上に自らの右手を差し出した。レオンは立ち上がると私の右手を優しく握り、エスコートしてくれた。
このドレスも、部屋も、瞳も、名前でさえもレオンから与えられたモノだけれども、この心は、この思いはレオンから与えられたモノではないと信じたい。
私はレオンの手をそっと握り返したのだった。
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