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「八重桜」
「え?」
突然言い出した私の言葉に大翔は不思議そうな顔をした。
その顔をしっかり見つめて、
「八重桜、一緒に見に行こうね」
と、私は笑顔で伝える。
どことなく私の中で先ほどのことが心の中に自然と滲んでいった。
大翔は私の言葉に虚をつかれたような表情をしたが、すぐに笑顔で頷いてくれる。
「あ、でも・・・・・・」
と、公園の方を向いた大翔の腕をとって自宅へ戻る道に歩き出す。
その視界の端に、小さな池に浮かぶ桜の花びらが見えた。
マスターが淹れてくれた桜茶を思い起こした。
「そうだ。桜茶を淹れるね、帰ったら」
「え?」
「桜茶はね、二日酔いにいいんだって」
「あ、あぁ・・・・・・」
気まずそうな表情になる大翔に、そうじゃないと微笑みかける。
「マスターのおすすめだったからね」
「マスター?」
「そう、オリエンタリスの。そうだ、八重桜を見に行った帰りにそこにも寄ろうね」
「・・・・・・あぁ、うん」
『ありがとう』
そう言った大翔の言葉は、桜色の傘の下とても温かく響いた。
桜の見頃は、まだ続く。
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