次の快速列車が来る間

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 あら、また睨まれちゃった。  それでもニコニコしている私に真上君は敵わないなと苦笑した。そして彼は何を思ったか、ふと自分の手首に視線を落とす。  どうやら腕時計で時間を確認しているようだ。あ、用事があるのに付き合わせてしまっているんだろうか。 「ごめんね、用事があるなら帰ってね。後もう少しだろうし、一人でも大丈夫よ?」 「あ、いや。そうじゃなくて、佐藤はいつも決まった時間に帰るのか?」 「え? まあ、大体」 「だったら家に連絡した方がいいんじゃないかと思ってさ。ほら、俺のせいで帰りを遅らせてしまったから」  別に一本遅れたぐらい大丈夫だけど。……さっきも思ったけど、気遣いができる人なんだな。 「そうだね。ありがと。じゃあ、お言葉に甘えて」  私は鞄から携帯を取り出した。 「もうすぐ快速列車が着きそうだな」 「本当? じゃあ、急ぐ」  えーっと、古い友人に会って話し込んだので電車一本遅くなります、でいいかな。……ん? 真上君って友人? 友人とかふざけんなとか言われたらどうしよう。  彼の視線が私の手元に落ちているのを感じて、変に緊張してしまう。  そうだ、同級生だ! 同級生だったら間違いないね。 「あ。ま、間違えた」  言い訳の言葉を口に出して、ゆうじんと打った文字を素早く削除すると同級生に訂正する。  沈黙で見守っている彼にあんまり見ないでと言いたいが、自意識過剰みたいで言えない。 「今日は俺に付き合ってくれてありがとう」 「え? う、うん」 「ところでそれ、もしかして最新機種?」 「うん。そうなの」  あ、そっか。何だ。画面を見ていたんじゃなくて、機種に興味があったのね。はい、自意識過剰でした。 「最近、機種変したんだ?」 「うん。その時、格安に移行してみたの」 「連絡先も変えた?」 「うん。メールアドレスだけ」 「後で俺にも連絡先教えてくれる?」 「うん。後で」  もう。メールに集中できないじゃないの。私、そんなに器用じゃないんだから。  矢継ぎ早に投げかけられる質問に対して、段々とおざなりの答えになる。 「だったら今度、お茶に付き合ってくれない?」 「うん。今度ね」 「土曜日は仕事休み?」 「うん。休み」 「じゃあ、今週の土曜日はどう?」 「うん。土曜日」 「俺と付き合ってほしい」 「うん。付き合う…………うん?」  ようやく私が顔を向けると真上君は微笑を浮かべていた。
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