春と雪の関係

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僕たちの通っていた大学は、北海道のとある港町にあって、丘の上にその小さなキャンパスを広げていた。勾配率一〇%の坂が一キロ近く続く通学路は最短でも四年間、学部生を苦しめる。そんな感じだから、学内で自転車を見ることは、終ぞ一度もなかったはずだ。 僕は、今年の四月に、この大学を卒業した。本当に四年間で出ることができるのか、非常に怪しかったのも事実ではあるのだけれど、どうにか卒業所要単位を修得することができて、卒業論文もつつがなく完成させ、学士の学位を授与されるに至ったというわけである。個人的には、あと二年くらい大学に居たってよかったくらいなのだが、田舎に残した母親の負担を考えて国立大学に入ったのに、留年なんぞしてしまったらなんの意味もないということに気づくまでには、それほど時間はかからなかった。 学業もそうだが、就職活動もギリギリだった。周囲の同級生たちが目を血走らせながらエントリーシートを書いたり、面接試験の予定を手帳に書き殴ったりする中、不思議と僕にはなんの緊張感もわかなかった。 しかし、そんな僕でも、ついに持ち駒が一社しかなくなった時は焦った。思わず母親に電話して、この企業の選考に漏れたら就職留年を許可してほしい…とまで嘆願したくらいだ。こんなことなら真面目に就職活動に取り組むべきだったと後悔したが、僕は不思議とその最後の一社の選考をパタパタと突破していった。さしづめ、大渋滞していると思っていた大和トンネルに入った途端、スイスイと車が流れて驚いた…という具合だろうか。 結局、僕はその最後の一社から内定を得た。第一志望ではなかったにせよ、業界的には自分の目指していた業界の企業であり、特に何の文句もなかった。 その時に、実の親以上にそのことを喜んでくれた存在が、いま、僕の目の前に立っている、櫻庭雪乃(さくらばゆきの)。 僕の、彼女だ。
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