第5章

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昨夜から今朝までの間に思い当たる理由なんて見当たらない。 ただ眠っていただけだ。 じゃあ、なぜ? だけど思考を巡らせる間もなく、俺を奈落に突き落とす一言が突き刺さった。 「もう、ここには来ないから」 「待って下さい」 言い終えるなり、くるりと向きを変え歩きだした彼女の腕を咄嗟に掴む。 これまでみたいに黙って見送ることが、今の俺にはどうしてもできなかった。 「何考えてるんですか? 理由も言わずにいきなり」 怒り?絶望? 整理のつかない衝動のまま突っかかる。 彼女の肩を掴んで無理矢理こちらに向かせた。 「じゃあ、なぜ来たんですか? もう来ないと、それを言うためだったんですか?」 どうしてそんな残酷なことが? 俺に感情がないとでも? “会いたかった” 俺に夢を見させたあの言葉は、一夜にしてただの地獄行きの言葉になった。 しばしの沈黙が流れた。 いつのまにか霧雨から小雨に変わった雨粒が、彼女の髪に落ちては小さく光って消えていく。 「……そうね」 否定してくれ。 そう願い待っていた俺の耳に、彼女の静かな声が届いた。 「ここに来たのは、それを言うためだったのかもしれない」
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