第57話

２６（承前）

　タツオの胸になかには巨大な空虚感しかなかった。人の命は消耗品で、艦艇や銃弾や航空機と変わらなかった。旗艦をふくむ空母三隻を轟沈あるいは航空戦力の発着艦不能と航行不能にまで追いこんだ。敵の艦船はまだ十数隻残っているが無傷の艦艇は存在しなかった。千隻近くあった揚陸艦は兵士とともに４分の３は海の藻屑(もくず)となっていた。氾＝エウロペ連合軍の上陸作戦からこの火山島を守ることはできたのだ。作戦は完全に阻止した。この島にそれだけの価値があるかはおおいに疑問だが。

　被害はどうだろうか。こちらは高速の護衛艦と巡洋艦を残し、空母艦隊のすべてを失った。３Ｄディスプレイの右隅にある戦死者のデジタルを読みあげた。

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　体感的にはほんの80分ほど。実際のリアルな時間流では４時間ほどの大海戦で、6000名近い日乃元兵士の命が失われていた。テルが愉快そうにいった。

「オモイ、敵の数字もだしてくれ」

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　テルとジャクヤが手を打ってよろこんだ。ソウヤも微笑んでいる。氾＝エウロペ連合軍は３倍の兵力を失っていた。タツオはジョージに目をやった。副官も憂鬱(ゆううつ)そうな目で見つめ返してくる。やはり自分とこの混血児は根っからの軍人にはなれないようだ。この戦闘が勝ち戦だとは、とうてい考えられなかった。