サクラ 舞う 宙

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サクラ 舞う 宙

 耳の奥で打ち消し合うように響くのは、--酸素を求めて荒い呼吸を繰り返す肺の音のない悲鳴と、久しぶりの運動でバックンバックンと身体の中で容赦なく響く心臓の悲鳴。  周りは美しい桜並木のはずだけれど、酸素が足りなくて狭まった視野では、足元に落ちた木の影と淡い花弁しか目に入らない。きゅうっと締め付けるように頭が痛むけれど、それでも自転車を漕ぐ足を止めなかった。  行きがこんな坂道なんだから、帰りはきっと爽快だなんて事をのんきに考えているから、全く余裕がないわけでもない。そんなよく分からないことを考える思考のループ。  不意に途切れた桜並木の影に、目的地についたことを教えられて顔を上げると、目の前には巨大なパラボラアンテナ。  何に使われているのかは知らない。宇宙ステーションに電波を送っているのだとか、宇宙人からの電波を受け取るためだとか、近隣諸国の電波を傍受するためだとか、はたまた他国の電波を妨害するための電波をだしているのだとか…… いろいろ言われているけれど、私は、この巨大なアンテナが誰が何の為に作った物なのか、全く知らない。  だけど、ここからなら少しでも強く届くかもしれない。そう思うから、彼にメールを送る時はいつもここに来る。  振り返って、今通り抜けてきた桜並木と遠くに見える街並みをカシャリと一枚写真に収めてメールに添付すると、巨大なパラボラアンテナにむけてメールを送信した。  メールのアイコンが旅立つのを見届けると、今度は颯爽とノンブレーキで桜の舞う長い坂道を自転車で駆け抜けた。  *          *     *                *
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