深々雪記

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雪が降る。 深々と、音もなく降り続ける。 無機質でいて、しかし儚さを持ち合わせたそれは、世界を銀色に染め上げる。 そんな中、離れ家が一件。 凍てつくような夜の中、その離れ家に灯りがついた。 「おかあさん…」 齢(よわい)十程の、男の子が、真っ赤な頬を緩ませた。 「おかあさん…」 伸びた手を、私はそっと握った。 男の子は、そのまま袂を手繰り寄せ、 私を引き寄せた。決して強くはない力で。 私は男の子を優しく胸に抱いた。 甘い乳のような香りが私を包み込む。 男の子は、堪(こら)えていた涙を流した。 何度も何度も、「おかあさん、おかあさん」と、嬉しそうに、けれど絞り出すように呼ぶ。 「元気じゃなくて、ごめんなさい」 男の子は、濡れた頬を私の胸元に擦り寄せる。 「いい子じゃなくて…ごめんなさい」 私は目をそっと閉じた。 「治らなくて……ごめんなさい」 男の子の手は震えていた。 私は頭を撫でる。 「あなたは何も悪くないわ。」 私はその赤い頬に、自分の頬を摺り寄せた。 「もう、いきましょう。よく頑張ったわね」 私の閉じた瞼からも、堪らず涙が溢れる。 こくんと頷いた男の子は、とても幸せそうに笑っていた。 「おやすみなさい」
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