最後の夜

2/2
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
  「ごめん」 「謝らないで」 由美の声は涙で掠れていた。 何も言えなかった。 いつものストロベリーの香りが俺の胸を締め付けて言葉が出せなかった。 別れたくは無かった。 無様に泣きじゃくってでも引き止めたかった。 でもその資格すら俺には無いように思えた。 考えれば考えるほど、俺は本当に由美を愛していたのかさえ疑わしく思えてくる。 綺麗に別れようとしてくれている由美。 それに従うのが、俺が彼氏としてできる最後の由美への優しさだと思った。 由美の体がベッドに倒れ込む。 「抱いて……」 由美の唇がかすかに動いた。 俺は無言のまま由美を抱き締めた。 そのまま俺は、現実を忘れたいためだけの行為にひたすら耽る。 失うのが怖いが故の行為にひたすら没頭する。 最後まで結局由美の気持ちを何も考えてやることができない。 今になっても俺は、何も変わらない俺のままだった。 だからせめて…… 〝好き〟という言葉だけは、けして言わないようにしよう。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!