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「ごめん」
「謝らないで」
由美の声は涙で掠れていた。
何も言えなかった。
いつものストロベリーの香りが俺の胸を締め付けて言葉が出せなかった。
別れたくは無かった。
無様に泣きじゃくってでも引き止めたかった。
でもその資格すら俺には無いように思えた。
考えれば考えるほど、俺は本当に由美を愛していたのかさえ疑わしく思えてくる。
綺麗に別れようとしてくれている由美。
それに従うのが、俺が彼氏としてできる最後の由美への優しさだと思った。
由美の体がベッドに倒れ込む。
「抱いて……」
由美の唇がかすかに動いた。
俺は無言のまま由美を抱き締めた。
そのまま俺は、現実を忘れたいためだけの行為にひたすら耽る。
失うのが怖いが故の行為にひたすら没頭する。
最後まで結局由美の気持ちを何も考えてやることができない。
今になっても俺は、何も変わらない俺のままだった。
だからせめて……
〝好き〟という言葉だけは、けして言わないようにしよう。
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