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誰もいなくなった隣のテーブルを見ながら、わたしは物思いに耽った。
人が胸に秘めた想いというものは、口に出したり、何か行動に移さなければ伝わらないものだ。しかし、その気持ちを表現する手段を誤ってしまうと、時としてそれは逆にマイナスな結果をもたらすことになるのだ。そういうことを、わたしは今の二人から学んだように思った。
一番は、やっぱり「それを自分が相手にされたらどう感じるか?」ということを考えることが大事なのだろう。わたしは話半分でしか聞いていないから、本当のところはどうなのかわからない。けれど、自分が女で、いきなりダブルベッドの部屋を用意されていたら「いや、わかりやす過ぎるだろ」と思わないものなのか。もしくは、もう完全に彼の中では「彼女は自分の恋人」という風に解釈されていたのか。どちらにせよ、もう答えは永遠の迷路に消えた。もう、わたしがあの二人と相まみえることはないだろうから。
そう思いながら天井を見上げていると、わたしの向かいの椅子を引いて、腰掛ける男がいた。わたしの待ち合わせ相手だ。
「悪い。待ったか」
「ううん。ちょっと待ったけど、いろいろと面白かった」
「なんだ、それ」
「言うと長い」
うん、長い。わたしにはそれよりも、相手に伝えなければいけないことがある。
「なら後に聞くことにするよ。―それよりも、今日来てもらったのは」
「この間の返事を聞くため、でしょう」
「勘がいいな」
そりゃ、ね。
わたしは、すうっと息を吸い込んだ。
「ごめんなさい」
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