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バニラココア
「ごめんなさい」
昼下がりのファミレスで、それは唐突に、隣のテーブルから聞こえてきた言葉だった。それまでの会話は、ガヤガヤの中に埋もれて、まったくわたしには聞こえてこなかったのだけれど、隣のテーブルに座る女性が発した、その六文字の言葉だけは、はっきりとわたしの耳に届いてきたのだ。
何も聞こえてこなかったら、きっと気にすることもなかったのだろうが、こんなにもはっきりと聞こえてしまっては、あまり他人のことに興味のないわたしでも、少しくらい聞き耳を立てても不思議なことじゃない…と自分に言い訳をする。すっかり温くなったカプチーノを口に運びながら、耳をそばだてた。
「あたし、あなたのこと、そういう目で見られません」
ああ、こう言うってことは、きっと色恋沙汰だろうな。そういう目で、というのはおそらく「恋人として」というところか。少なくとも今の言葉からは「あなたのことだけを特別視することはできません」というニュアンスが汲み取れる。
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