優しい嘘

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優しい嘘

縁側で今日も、母は父が愛用していたロッキングチェアでぼんやりと外を見ていた。  手にはいつものように、イチゴのアイスクリームの棒が握られている。 母は、ホームパックアイスのイチゴしか口にしない。これはずっと昔から決められていて、母がイチゴで私がオレンジ、他の余ったアイスを父が遠慮するように時々口にする程度だった。マイハウスルールとでも言おうか。  私達親子は幸せだった。去年の夏に父が亡くなるまでは。あの時の悲しみは、言葉では表せないほど悲痛なものだった。特に、母は狂ったように泣きじゃくり、すぐに父の後を追おうと自殺を図った。だが、私が家に居たのでそれは未遂に終わった。その後も何度か自殺未遂を繰り返したが、最近ではもう抜け殻のように、日がな一日、ああしてぼんやりと縁側のロッキングチェアに座っているだけの存在になってしまった。     
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