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「本当に悪かった」
玖珠里は言った。
私は、胸が苦しかった。
謝罪は2度目だ。
焼け跡に、家を建てる寸前に、私から奪った鋏を返しに来た時に、もう既に謝って貰っているし、何より、私は最初の時、貴志さんとこの人に助けて貰えなかったら、生きてられなかった。
「もう、この前、謝ってくれたから、良いです。……ごめんなさい」
私は、人生散々だった。
無力で無知で奪われて行くばかりの日々だった。
でも、いつだって、何かしら、誰かに助けられ、救いのある人生だった。
いつだって、いつも誰かが助けてくれた。
そして、その一番最初の救済者が、貴志さんとこの玖珠里だったんだ。
私の目頭には涙が溜まっていた。
泣くのは恥ずかしい事だが、ちゃんと前を見てお礼を玖珠里に言いたかった。
「何で謝る」
ありがとうって言いたいのに、言葉に出来ない。
「私の事、嫌いでしょ。私は道木の娘だから」
「関係ない。俺は……、親父が好きだっただけだ。お前に酷い事して悪かった」
「お店売れなくしてごめんなさい」
「自業自得だ……。逆に良かったよ……。最後の最後、あの場所に戻ったんだから。俺も、お袋も全部捨てても。最後にあの場所を忘れなかったんだ。馬鹿親父……」
私の目の前で、玖珠里が目頭を抑えて沈黙している間に、二人が注文したアイスクリームサンデーが運ばれて来た。
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