18人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
そのから二十年後、聡子(さとこ)は美しいウエディングドレスに身を包み、教会の中へと入って来た。ミヨ子と聡夫の名を取った名前、それが聡子。つまり、聡子はミヨ子と聡夫の娘だ。
聡子と腕を組んで歩くのは、当然父である聡夫だ。二人は、この先娘と生涯を共にすることとなる、花婿のもとへと歩いていく。
花婿のもとまで行くと、父親はそっと去っていき、すぐさま椅子の上に置いてあった、ミヨ子の写真を手に持つ。
「ミヨ子、お前の見たがっていた、聡子の花嫁姿だぞ」
ミヨ子は、今から五年前に、息を引き取った。
十年前に約一年の余命と言われたものの、それから五年と言う長い月日、彼女はしっかりと生きてきた。目指すはミヨ子の花嫁姿と言っていたものの、その夢を叶えることは出来なかった。だからこそ、どうかこの手で娘の晴れ舞台を見せてやる。聡夫は肩まで写真を持ち上げた。
式は進み、娘が手紙を読み始める。
「お父さん、お母さん。私、お父さんやお母さんのように、過去にも未来にもとらわれない、今、この時を大切にしたい。だから……どうか、応援して下さい」
娘が頭を下げると、式場は拍手に包まれた。
自分も彼女も、決して過去や未来にとらわれなかったわけじゃない。だが、過去へ、そして未来に行き、自分の気持ちを再確認して、今を受け入れるようになった。
この先、彼の過去を知り、未来を共にすることになる。しかし、今、今この時だけは。大切に抱きしめて生きてほしい。
本日は、晴天だ。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!