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「何だか―――不思議だ。自分が獣の姿になっていたなどと」
簀子に出た博雅が、黎明の光の射してきた空を見上げて呟く。
「あまりいい記憶ではあるまい―――忘れろ」
脇に立った晴明の言葉に、そうでもなかった、とぽつりと声が返された。晴明が博雅の横顔を見やる。
「獣になっているときは世界が全く違って見えた……風も光も、違う楽の音を奏でていた」
曲がかけそうだ、と博雅が呟いた。
「もう一度くらい野の獣になってみてもいいな」
「……懲りないヤツだ」
俺はもうごめんだぞ、と晴明が笑う。ああ、と博雅が笑い返した。
夏の初め。上ってきた太陽が今日一日の晴天を告げていた。
「大神」了
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