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解けて床に散った甘い色の髪。すう、とその胸が大きく息をした。
左手を押えたまま、晴明がその肩口に顔を伏せた。
「……ったく、意地汚く出されたものを何でも食うからだ」
「……すまん……迷惑をかけた」
一晩眠った後、博雅は目覚めた。
「手は大丈夫か」
晴明の左腕に新しく布を巻きながら、心配げな視線を走らせる。
「大事無い」
「思い切り噛んでしまった」
牙か爪で傷つけたものか、晴明の右の指先にも血が滲んでいる。
博雅が指を掬い上げるとそれに舌先をつけた。
「……まだ獣の名残があるぞ」
くすりと笑って言われて、慌てて唇を離した博雅が目元を染める。
「かわいかったのに……つまらない」
春波が小さく吐息を落す。
狼の方は術が解けるや否や、屋敷の門を飛び越えて逃げてしまった。
「時々でいいから、姿を変えてみてはくれぬかのう」
上目遣いで請われて、博雅が困った顔で視線を逸らす。
くすりと笑った紗羽が春波の黒髪に軽く指を絡めた。
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