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風は何処からやって来るのだろう。
上から、横から、前から、後ろから……下から。
地上から離れた場所に立つと、何処からか風はやって来た。
時に厳しく、時に柔らかく、私の体を押し撫でて弄び様子を伺う。
見晴らしの良いこの場所から遠くを眺めて深く体の中に風を取り入れる。
鳥が風に乗り空高く舞い躍る。
雲が風に流され青いキャンパスに様々な模様を描く。
私はあの鳥のように喜び舞えるだろうか。
私はあの雲のように彼方へと想いを描けるだろうか。
私には自由となる翼などない。
私には描くための筆など手にする事が出来ない。
俯き自嘲して小さく息を吐き出した。
風が吹き上げてきて私の体を撫で付け空へと駆け昇る。
風に揺られ、空を仰ぎ見て耳を澄ましてみる。
風が優しく頬を撫で、耳に囁きかけて私の心を乱そうとする。
『帰ろう?』
『ここから帰ろう』
私の体を確かな場所へと押し戻そうとしてくれる。
私は風を抱くかのように腕を伸ばし広げて笑顔で答え返す。
「ありがとう……うん、───ごめんなさい」
和らいだ風の一瞬をつき、一歩踏み出し空(くう)に身を委ねた。
風は慌てて支えようとし、支えきれずに諦めて別れを告げてくれる。
『さようなら』
「さようなら」
私の涙を連れて風は空へと去っていく。
私は風のあたらない、風を感じる事のない場所へと旅立つ。
~fin~
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