講演 ー変わりゆく世界ー

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 それは遺伝子に勝負を挑んできた人間の、勝利のファンファーレのようだった。 「皆さん、世紀の瞬間が訪れようとしています。私たちはついに、すべての癌を克服する時代に突入していくのであります」  スポットライトに照らされながら、声高々にマイクに叫ぶ依楓(いぶき)。  そしてその陰に隠れるように、俺は着慣れないスーツ姿で固いパイプ椅子に浅く腰かけていた。  俺たちの歴史に残るであろう講演に、ホールは満員御礼。  依楓の自信漲るファンファーレに、獲物を見つけたハイエナのようなギラギラした双眸が照明の下にあふれている。  興奮した息遣いが、会場の酸素を奪っていく。 「これから新薬について説明していきます。ですが難しいところもありますので、寝不足の方はお休みいただいても結構ですよ」  会場からは、控えめな笑い声があがった。 「それでは、遺伝子が織り成す迷宮のような仕組みを、私が皆様の先導者となって、一緒に解 き明かしていこうではありませんか」  俺はシミュレーション通りに、手元のパソコンのエンターを押した。プロジェクターが、生命の根源を説明するスライドを映し出す。
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