泣き虫迷子とはちみつ猫

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「やぁどうもおはよう。どうだい、視界はクリアかな?わたしの指は見えるかな? 見えない。オーケイ、素晴らしい。私に指はない――爪はあるけどね。視界はクリア。思考力、判断力共にクリア。 いや、なに、ごく稀に視力がなかなか戻らない子がいてね。更にごく稀にそれを隠そうとする子もいる。視力がなかなか戻らないのは長く眠っていたか、強く現実から逃避していたか――どちらにせよ、恥じることではない。たいてい雪から抽出した金平糖を一つ、二つ――多くて五つ。これで治るんだが。 手足はどうだい。ぐー、ぱー、ぐー、ぱー。オーケイ。立ち上がれるかい。少しでもふらつくようならやめなさい。見てわかるように、君が転けたら私は支えられないからね。よしよし。深呼吸でもしなさい。ここの空気は甘くて涼しくて良いものだから。そしたら、さあ、座りなさい。起きたばかりは疲れやすいものなのだよ。特に君は女性だから。 そうそう、ここに来るのは君で117342人目だ。男は85662人、女は31680人。男が多いのは戦争でよく死ぬからだ。 さてさて、本題に入ろうか。そこにカーテンがあるのが見えるかね?そう、ゆらゆら揺れているだろう。何色に見える――?……おっと、大丈夫かい?言葉がなかなか出てこないようだね。少し待ちたまえ。そろそろのはずだ。 ほら、そのカーテンからきらきら落ちたものを拾って食べなさい。きっと美味しいから。おや、いらないのかい?私が少し取ってこようか――ほら、どうぞ。どうしたんだい、そんなまごまごしちゃって。おっと、私としたことが自己紹介を忘れていたね。本来ならば本題に入る前に言うべきだったか。これは失敬失敬。私はメード。気軽にメードと呼び捨てにしてくれ。君の名前は?」
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