第五章  続く凶行

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 やっと取り戻した環。堪らなく愛しかった。  高彬の企みを文子が知ったのは、その夜の事だ。「どうしても妻にしてしまいたい」、と一生懸命に頼みこむ。いい歳をしたその息子の頼みに負けた。  環をもう一度娘に出来るのなら、協力してやってもいいと文子が約束してくれる。だから、何があろうと実行してしまおうと決意は固い。  その頃、文子の後を付けて来た刑事二人が本庁に連絡を入れていた。 「二宮環の所在を確認しました。本人の姿を見ましたから確かです」  捜査本部はその日の午後、新しい動画を手に入れていた。  地検の植込みの中に、以前に発見されたのと同じく投げ込まれていた物だ。だが今回も殆ど手掛かりは掴めなかった。  「少年の身柄との交換は、二宮環を貰い受けてから教える」、と白熊が語る。狼が少年の喉に牙を突き立て、血が飛び散る映像は衝撃的だった。  少年の身の安全の確保が最優先順位だと、指揮官達の気持ちが動いた。「とにかく二宮検事に捜査本部へ来て貰おう」、と管理官が捜査会議で表明したのを受けて捜査本部の意識が変わり始めている。そして藤堂高政も動いた。  刑事部長がまだ駆け出しのキャリアだった頃、警察庁で首席監察官として雲の上に居た人物。穏やかで恐ろしい男と噂されていた男だ。そして今は、TD警備保障の会長でもある。(警察官の再就職先として優良な、大事な受け入れ先の会長だ)  呼ばれて、無視は出来なかった。  捜査一課長も同席して、都内のホテルのラウンジで会った。警視総監からの口利きがあっては、会うしか無い。  高政は穏やかに、だが的確に今回の動画事件のあらましを確認してくる。  事前に彼は、平瀬検事と一緒にTD警備保障の本社ビルで高彬に会い、今後の対策を検討してからホテルのラウンジに乗り込んで来ていた。  高政もまた、殺人に至った前回の誘拐が気になっている。その前の事務官が生きているのに、高畠陽子だけが殺された理由はなんだろう。そして何故、二宮環がこれ程の時間がたった後で指名されたのか。  高政は、「もしかしたらこれはABC殺人事件では無いか」、と疑っていた。             ☆☆☆環と高彬 part2に続く☆☆☆
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