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一ベル 模擬戦
――泥濘に潜んで三日。
腹の虫が鳴くのを諦めて、毛ほどの贅肉から僅かな栄養を喰らい始めた頃、密林の中を縦横無尽に進む反政府軍の背中を捉えた。
石像と化していた肉体に喝を入れ、血を通わせる。泥濘から這い上がり、反政府軍に向かって白い息を切らせて単身で特攻を仕掛ける。
機関銃の引金を引けば、銃口から過激な音色が響き、投擲弾を投げれば血肉が舞い密林を更に熱く燃やす。機関銃と投擲弾が奏でる地獄の歌。大観衆を前に死を歌うアーティストにでもなったかのような、興奮と自己陶酔。
追撃しているつもりだった反政府軍は、背後からの攻撃を予想しておらず、ある者は髪を振り回し、ある者は側倒する。逃げ道を絶たれていた仲間の部隊が、立ち上る火煙に士気を上げて飛び出してきた。演奏は更に苛烈し、反政府軍は編隊を乱した。
生き延びたのだと気付いたのは、仲間に担がれて密林を脱出した時だ。
退路が断たれた状況で必死に奏でた地獄の歌が、自分と仲間達を救ってくれた。
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