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店を出ると、日が傾いていた。
青い袋に包んで貰ったプレゼントを、自転車の籠に入れ、肩掛けのエナメルを、背負ったまま荷台に乗せる。少し体勢が辛い。
微かに朱色がかった道を漕ぎ出す。
行きは二人分の重みを抱えていた足には、自分一人の重みは軽かった。
大した交通量も無い道で、直前までしていたことも相まって、思考は彼女に傾く。
何故、あんな顔をしたのか。
俺に、何かを求めるような顔を。
妹扱いは、それこそ今に始まったことではない。今年のような訳の分からないプレゼントを、贈った試しも無い。
至極単純に、彼女の素行から考えるならば、あんな顔をするのは、彼氏と上手くいっていないからくらいしか思いつかない。
そろそろ、高校に進んでから三ヶ月だ。時期から言っても、おかしくない。
気になる。でも、訊けるはずもない。でも、やっぱり気になる。
彼女の涙の揺らめきは、早朝の海にとてもよく似ていて、瞳は、どこまでも吸い込まれそうに、ひたすら青くて。只々美しいと、見惚れた。
思えば、彼女を美しいと思うのは、彼女が泣いている時だった。
彼女の涙を見ると、心を引き抜かれたみたく、何も出来なくなる。
今回も何も出来なくて、我に返ったら、駆け出す彼女の後姿を見ていた。
しかし、もっと泣いて欲しいとは、決して思えない。
笑っていて欲しいと思う。
彼女には、笑顔が似合うのだ。
美しいのと、似合うのとは、だいぶ違うのだと、彼女を見ていて知った。
どんなに美しくても、泣いていたら、慰めたくなる。
その細い肩を、支えてやりたくなる。俺は味方だからと、安心させてやりたくなる。
人間としては、当たり前なのかもしれないけれど、特に強くそう思う相手を、好きだと言うのだろうか。
だから、俺は彼女を好きだと思うのだろうか。
仮に、俺の推測が当たっているならば、俺に出来ることは、昨年までと同様に、平然とプレゼントを届けることしか無い。
俺が変わらなければ、彼女もきっと、変わらない。
そうして、今日も俺は、彼女に告白しない理由を考える。
例えば、彼女を何からも守れなくなるくらいなら、現状を維持し続けた方がましだから。
例えば、明日も確実に、彼女に笑い続けていて欲しいから。
例えば……
了
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