休日

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
   今日も俺は、君に告白しない理由を考える。  例えば、君は俺のことを兄というから。  例えば、君と俺はタイプがまるで違うから。  例えば、君には既に、恋人がいるから。 俺には、好きな人がいる。 一つ年下の、可愛くない女。 所謂不良とつるんでいて、見た目も行動も派手なのに、俺と同じ、県下一優秀だが頭の固い高校に通っている。 髪は黒い。校則だからではなく、本人がそれを気に入っているから。 毛先がくるくるとカールしているが、天然だ。学校にいる間は、スカートだって長い。 外国の血が入っているらしく、肌は透けるように白く、瞳は深い青だ。 動かなければ、人形のように美しい。 ……そう、動かなければ。 「チロー、はいるよー」 明日提出の課題に追われる、麗らかな六月末の日曜日の午後に、ノックもせずに俺の部屋に上がり込んでくる奴。 先の、『好きな人』だ。 「……お前さ、俺が着替えてたらとか、思わないわけ?」 「え、チロがそんな清潔感のあることするわけないじゃん」 「真顔でそれを言われる俺の立場な……」 そんな俺の呟きを総スルーして、彼女は俺のベッドに腰掛ける。 最近暑いせいか、彼女は早くもキャミソールとショートパンツ姿で、真っ白な肢体が目に痛い。 幾ら俺がお堅い秀才校の草食系代表であるからと言って、好きな奴を目の前にして、劣情が全く頭をもたげないということは、少しばかりでなく無理な話であって、ムダ毛一つない細い足とか、その他諸々、気にするなという方がどうかしている訳で……。 「お前な……。男の部屋でそんな格好してんな、バーカ」 「へーき。チロにしかしないから」 満面の笑みで、上目づかい。あざとい。 そして、彼女は到頭ベッドに寝そべる。 艶やかな髪が、豪奢に白いシーツに広がる。 「チロにそんな甲斐性ないもん」 彼女は、くすくすと笑う。しっとりとした光を纏った髪も、彼女に合わせて揺れる。 当たっているのが腹立たしい。 「チロは、海のお兄ちゃんですからねー」 その無防備すぎる口振りは、そのままこいつの俺への感情を表している。 邪なあれそれ等、望むべくもない。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!