0人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
今日も俺は、君に告白しない理由を考える。
例えば、君は俺のことを兄というから。
例えば、君と俺はタイプがまるで違うから。
例えば、君には既に、恋人がいるから。
俺には、好きな人がいる。
一つ年下の、可愛くない女。
所謂不良とつるんでいて、見た目も行動も派手なのに、俺と同じ、県下一優秀だが頭の固い高校に通っている。
髪は黒い。校則だからではなく、本人がそれを気に入っているから。
毛先がくるくるとカールしているが、天然だ。学校にいる間は、スカートだって長い。
外国の血が入っているらしく、肌は透けるように白く、瞳は深い青だ。
動かなければ、人形のように美しい。
……そう、動かなければ。
「チロー、はいるよー」
明日提出の課題に追われる、麗らかな六月末の日曜日の午後に、ノックもせずに俺の部屋に上がり込んでくる奴。
先の、『好きな人』だ。
「……お前さ、俺が着替えてたらとか、思わないわけ?」
「え、チロがそんな清潔感のあることするわけないじゃん」
「真顔でそれを言われる俺の立場な……」
そんな俺の呟きを総スルーして、彼女は俺のベッドに腰掛ける。
最近暑いせいか、彼女は早くもキャミソールとショートパンツ姿で、真っ白な肢体が目に痛い。
幾ら俺がお堅い秀才校の草食系代表であるからと言って、好きな奴を目の前にして、劣情が全く頭をもたげないということは、少しばかりでなく無理な話であって、ムダ毛一つない細い足とか、その他諸々、気にするなという方がどうかしている訳で……。
「お前な……。男の部屋でそんな格好してんな、バーカ」
「へーき。チロにしかしないから」
満面の笑みで、上目づかい。あざとい。
そして、彼女は到頭ベッドに寝そべる。
艶やかな髪が、豪奢に白いシーツに広がる。
「チロにそんな甲斐性ないもん」
彼女は、くすくすと笑う。しっとりとした光を纏った髪も、彼女に合わせて揺れる。
当たっているのが腹立たしい。
「チロは、海のお兄ちゃんですからねー」
その無防備すぎる口振りは、そのままこいつの俺への感情を表している。
邪なあれそれ等、望むべくもない。
最初のコメントを投稿しよう!