休日

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そもそも、出会い方が運の尽きだったのだ。 小一の時、こいつが隣に引っ越してきて、それからずっと、お隣さん。 世間一般に言う、幼馴染って奴だ。 漫画とか、小説とか、幼馴染から恋人に、という展開は数多存在するが、実際、そんなのは有り得ない。 幼馴染って奴は厄介で、家族よりは遠いのに、友人やらなんやらよりは近すぎて、恋愛対象に見られない。 おまけに、一歳という年の差がちょくちょく一年の空白を作る。 まったくもって、上手くいかない。 どうにももやもやする気持ちを払拭したくて、窓を全開にすると、生温い風が、入ってくる。 道路を挟んで向かい側には、海が見える。 小さい頃は、オーシャンビューだと喜んだものだが、毎日見ていれば、有難味も薄れる。 磯臭いし、風はべたべたするし、少し間違えると、すぐに自転車錆びるし。 「……で? 今日は何をオノゾミデ」 「わー、チロったら話が早いー」 彼女は起き上がり、枕を放り出す。思った通りだ。 「勉強教えて! 課題、全っ然わかんなくって」 「またかよ! だから、無理して入んなって言っただろ。入学して三ヶ月も経たないのに勉強ついていけてないって、やばいぞ」 「いーじゃん。どうせチロが教えてくれるし?」 「俺だって暇じゃないっての」 「休みの日も課題しかすることの無い癖に」 「……。仕方ねえな」 「わーい! ありがと!」 課題持ってくる! と叫ぶや否や、彼女は部屋を出ていった。 部屋が、一気に静かになる。風の音が、いやにはっきり耳に届く。 彼女が出ていった扉を見ながら、ベッドに腰掛ける。 朝に整えたベッドは、彼女の襲来によって、見事に乱れている。 どっと疲れを感じて、寝そべってみた。 すると、図らずもふわりと、ほんのり、彼女の使う香水の匂いが、鼻に触れた気がした。してしまった。 夏に咲く白い花みたいに、爽やかで甘い匂い。 「……うわ、きも」 駄目だ。片思い(しかも初恋)を十年以上も拗らせている高二男子とか、笑えねえ。 自分だと、尚のこと気持ち悪い。 自分の顔が赤くなっているのが分かったから、誰も見ていないのに、両手で顔を隠した。 潮風の音も、もう耳に入らなかった。
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