解離する日常

11/12
233人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
機能しない東京消防庁の代わりに、都心部上空からの消火活動は、神奈川消防局、千葉消防局、航空自衛隊、それに湾岸部は海上保安庁第3管区海上保安本部、海上自衛隊に割り当てられ、陸路での消火活動、人命救助については首都圏一帯の各消防局、各警察組織、陸上自衛隊が担う事となったとアナウンサーは叫び続けていた。 海外からの救援部隊受け入れについては、青葉内閣総理大臣臨時代理は留保しているというが、その理由はまだ明らかにされてはいなかった。 渋滞に巻き込まれながらも、トレーラーは目的地へと進み続けて行く。 陽はすでに沈んでいた。 助六が言った。 『ねえ。曲でもかけよっか』 反対する者は誰もいなかった。 そらねも気分転換がしたかったから、助六の提案は有り難かった。 車内に響き渡るメロディー。 ティンパニーがキレの良い低音を奏で、ヴァイオリンやヴィオラ、トランペットにサクスフォンが交わると、その音は更に迫力を増した。 そらねが言った。 『あ、この曲知ってます』 助六とゆり子は驚いていた。 助六が得意げに。 『そらちゃんには悪いけど、ここおじさんおばさんばかりだからさ。ザ ピーナッツで我慢してね』 と言いながら柳垣に目配せをして見せた。 柳垣が呟いた。 『懐かしいな、恋のフーガ...』 車内の時計の針は21時を指していた。
/274ページ

最初のコメントを投稿しよう!