幸せの断面

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 特急サンダーバードを降りて、快速電車で駅に向かう途中、車窓から滋賀の街並みが見渡せた。それほど過密な街ではなくどこにでもある日本の地方都市の風景に過ぎになかった。昇平は、SNSで知り合った女性と初めて会うことに関して、結婚相談所に紹介されるよりも儚い縁であることを予想しつつも、それでも未だ見ぬ運命の人に出逢えることを期待して、胸が高鳴る心境であった。  車中、ダイレクトメッセージを送った。  ――もう到着するよ。待っていてね。  ――ミリタリージャケットにジーンズ着て待ちよるで。  さくらから、そのように即答が返ってきた。昇平は、線路の上を車体に揺られながら、落ち着かない心持ちで、近江八幡駅への到着を待った。  駅に着くと、改札口に人が多く待っていた。しかし、ミリタリージャケットを着ている女の子は一人しか居なかったので、昇平はすぐにさくらの見分けが付いた。さくらは、髪は黒くてショートに切り揃え、きりっとした切れ長の眼が理知的な印象を与える、小柄でスリムな体型の女性だった。近寄っていって、挨拶をする。  「さくらちゃん、昇り龍です」  すると、あまり表情を変えないままで、彼女は言った。  「さくらやで。こんにちは」  ふたりは並んで、駅の西口から歩き出した。  「僕は、本名は六書昇平というんだ。珍しい名前で地元にも家一軒だけしかこの苗字はない」  「はあ、そうですか。うちの姓も珍しいで。うちは、天白恵子って言うんや。天白という姓も滋賀県じゃ数えるほどしか無いねん」  「珍しい苗字同士か。ひょっとしたら、運命的出逢いかもね」     
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