第1章 猫の缶詰め

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工場内で猫を取り扱った商品は缶詰めだ。缶詰めは見栄えも他の食品となんら変わりはないし、一般家庭でもリーズナブルな食品として受け入れてもらう事を第一にしたらしいのだが、まず製造工程で手間が極力掛からないのが魅力なのである。基本的に見栄えの悪い不良を缶詰めにするものだが、猫となると不良も良品も区別なくすべてにおいて彼らは一つの商品になることを目的とし積荷にされるのだ。話しによると極少数の物好きに個人的な食材として高値で買い取られることもあるようだ。僕は猫のソテーやムニエルに興味もないが…いや、この猫の缶詰めだが、実はなかなかの美味なのである。ただ、製造過程が余りにも衝撃的であるが為に僕たちも好き好んで猫を口にしようとするものは殆どいないようだ。 まず捕獲された猫は帯運搬装置に乗せられてゆっくり別室から白い湯気を立てて流れてくる。この時点で猫は既に毛皮を剥がされ母胎の中で丸まる胎児のような姿勢で流されてくる。猫はすでにつるっとしていて貝の中身のように明るいツヤを持ち全身をペトペトさせていて、それらは皆インキの乾かない浮腫を身体中に蓄え、醜く汚かった。猫というのはこうも不恰好で醜いものだったかな?しかし一見でその塊は丸い額に若干突き出された鼻先、そして全体の柔らかそうな丸っこい背骨の豊かな肉付きが猫と知れるのが不憫でならない。僕は一年中マスクをしているがツンと鼻をついた血の匂い、それから気配いっぱいに染みる調味料のにおいで頭を少しクラっとさせる。 赤い塊はゼラチン質の粘膜に覆われているように身体中ぬるぬるさせているので、手から滑り落とさないようにしてゴム手袋越しに丁寧に扱わなければならない。首と項の括れに指を入れるようにすると基本的に迅速にしかも落とさずカゴまで運ぶことが出来るので非常におすすめする。とにかく猫であった塊は生きている一般的な猫と違って案外重く掴みにくい。尤も僕は特に猫に対して特別な執着もなかったので単に猫の重みについて考えたことがなかったからという事もあるだろうが、とにかくこの作業は見かけ以上にずっと作業員を草臥れさせる。
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