第1章

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セラミックス・ロボット            笹木幸雄 「笹木君」 廊下で林部長に呼び止められた。「本日付けで開発部に配属された荻窪緑君だ。面倒見てやってくれ」と言うなり、彼はすたすたと行ってしまった。 「荻窪緑です。どうぞよろしくお願いします」 「笹木です」若い女性は、どうも、苦手だ…。「えーと、ついて来てください。-専攻は何を?」 「オプトロニクス(光電子工学)です」  あ、それでうちへ回されたのか…。 私はミニョルタ八尾工場開発部で技術主任をしている。研究室には技師が三人いる。ベテランの小平優介さん。ロボットエ動学の高橋知絵君。好青年の志摩一紀君。そして彼女で、四人目だ。  私は彼女をテストルームに連れて行った。開発中のロボットの作動状態を検査する部屋だ。ボディはほぼ完成していて、椅子に座った状態で置いてある。 「光電子頭脳は製作中なので搭載してないが…」 「これが…、ロボット…?」 初めてこれを見た人間は皆こんな顔をする。 「そう。わが社の新製品、タイプα、モデル70000、試作機だ」 「だってこれ、まるで普通の女の子じゃないですかぁ。こんなの初めてですよぉ」 「コンセプトは限りなく人間に近いアンドロイド。従来のロボットの概念を破り、ファイン・セラミックスの骨格に光収縮セラミックス繊維の筋肉を付け、弾性セラミックスの皮膚で覆っている」 「男性セラミックス?」 「弾力性を持つセラミックスだ」 「光収縮繊維って? スポーツウェアに使ってるやつですよね? 特定の波長の光を当てると収縮する…」 「基本的には同じ物だが、強度を上げるためにわが社で独自に改良した。エネルギー・パックは光子カートリッジP350。光ファイバーの神経系で各部の筋肉にレーザー光線を送り作動させる」 「す、すごいわ。これ、名前あるんですか? モデル・ナンバーじゃなくって。名前つけましょうよ。名前。そうだ。グラスディンにしましょうよ」  つ、ついて行けるだろうか? 「グラスディン? かわった名だね…」 「子供の頃読んだ小説に出てくるんです。そう。イメージにぴったりだわ」 彼女は前に進み出てα70000の両肩に手を置いた。 「グラスディン…。わたしがあなたの脳みそを作ってあげます…」  この子は、かなりアブナいタイプかもしれない…。 半導体の限界                   杉本 宏
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