野獣の品格

26/33
22284人が本棚に入れています
本棚に追加
/434ページ
 なんて商売上手。というより「真山さんと」と言う辺り、さり気なくお客のサポートしてる所がもう。  ──侮り難し推定20代の美男子バーテンくん。  とまぁ、いい具合に緊張が解れた頃合いお隣さんを窺ったらば、スコッチをしっとり飲み上げたのちオデコの形がわかるほど大胆に前髪をかき上げていた。  その仕草でピンときて、鞄をガサゴソ漁り出す私。 「ん、なに」  一度に数十件案件を抱えてるって噂。しかも数日で管理職と営業、ダブルの引継ぎ業務はさぞ大変だったろう。  そんな真山さんに、棒付きキャンディ、チュッパチャプスなるものを差し出した。 「これ、どうぞ。疲れてる時には甘いものって言いますから」  常に鞄に入れて持ち歩いているのだ。  ちょっとした空き時間、口寂しさを紛らすために。大丈夫、私の分はまだあるから。 「ストロベリー味お嫌いですか?」 「いや、今そういう問題か?」  ずずいともう一押ししてみても一向に受け取ってもらえそうにない。  それもある時「ああうん、お前そういう奴だよな」なんてふっと笑い出したんだ。  途端、自分のしたことが恥ずかしくなった。
/434ページ

最初のコメントを投稿しよう!